第12回 観察学習
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1. ヒト以外の動物の社会的学習
ヒト以外の動物にも社会的学習がみられる(眞邉, 2019)
局所強調(local enhancement)
他個体が特定の場所で強化される状況を観察されることによって、その場所に対する注意が向けられやすくなり、学習が促進されること
味覚嫌悪条件づけ未経験個体(カラス)は経験個体と一緒の条件では、餌を探す場所に関する発見学習が促進される
経験個体と未経験個体とで一緒に餌を探す場面と未経験個体のみで餌を探す場面の比較
刺激強調(stimulus enhancement)
他個体が特定の刺激に関わっているのを観察すると、その刺激と物理的に同じ刺激と関わる確率が高まること
ハチの採蜜行動において、他のハチが採蜜行動をしたのと同じ色の花に飛行する確率が高まった
幼鳥が、他の幼鳥が採餌したのと同じ色の餌皿から採餌する確率が高まった
観察条件づけ(observational conditioning) or 代理条件づけ(vicarious conditioning)
他個体が特定の刺激に対して(レスポンデント)条件反応をしている状況を観察していることにより、観察した個体にも同じ刺激に同じ反応を示すこと
サルは恐怖反応の観察条件づけが可能
ヒトでもこのような社会的学習は成立している
母親が台所でゴキブリに恐怖反応を示す様子を観察した子どもが、恐怖反応を示すようになる(眞邉, 2019)
この例をもとにして考えると、
局所強調とは、その台所という特定の場所での学習が促進されること
刺激強調とは、ゴキブリと同じ色の刺激への学習の確率が高まること
観察学習(observational learning) or 代理強化(vicarious reinforcement)
他個体がオペラント条件づけをしているのを観察することにより、同じオペラント条件づけによって成立すること
動物を被検体とする場合、局所強調や刺激強調が生起している可能性を排除するために、実験状況を統制する必要がある
観察される被検体と観察する被検体とで、
反応対象の物理的特徴が同一で、
反応結果も同一であるが、
複数の異なる反応を自発することができるようにする
ラットがレバーを動かす方向が左右どちらかに動かすことで強化される様子を観察した別のラットが、強化されたのと同じ方向にレバーを動かすことを観察した実験例
これは、ラットが他個体を模倣する(imitate)と捉えることができる
観察学習は比較心理学からの研究も盛ん
言語行動を行う能力は不要だから
比較認知科学
生理心理学との接点
2. ヒトの模倣学習
「観察学習は人間以外の動物ではほとんど不可能であると言ってよい。猿類でかすかにその兆候が見られるが、確実ではない」(春木, 2000)
このように評価しておくほうが安全とも言える
ヒト以外の動物でも観察学習を確認することは可能と言えるが
観察条件づけではなく観察学習はきわめてまれという話かmtane0412.icon
観察を通したオペラント条件づけの成立
他個体の報酬で自分の報酬系を刺激するようなメンタライジング能力が必要そう
春木(2000)の定義
「人間ならではの学習の形態の1つ」
「モデルの行動を見ることだけで、その行動を学習してしまう」
「これも言葉を持つ人間固有の学習で」
「教示による学習であるが、観察学習は人間のこのような高度な学習形態の原初的なものである」
模倣と観察学習との関連について
「模倣の学習」と「模倣による学習」とを区別している
「模倣の学習」とはモデルと同じ反応をすることを学習すること
「模倣による学習」とはモデルと同じ反応をすることによって、モデルが習得してる刺激・反応の結合を一気に学習してしまうこと
「模倣の学習」と「模倣による学習」との間には「かなりの飛躍があり(中略)人間は模倣の過程を内在的に言語によってなしている」ために研究が困難
幕内, 2013の議論
「模倣」という現象は、最近の社会性に関する脳基盤研究の立場から注目されている
ミラーニューロンの発見
しかし、「模倣」についての明確な定義がないために、諸研究を評価し解釈することが困難である
社会的学習の分類(Whiten et al., 2004)
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「観察条件づけ」「強調」は眞邉(2019)の分類と同じ
「複製(copying)」はモデルの行動そっくりそのまま真似すること
「模倣」
その行為の形式を真似すること
「対象物の運動の再現」
モデルの行動の対象物の運動形式が同じになるようにすること
「最終状態エミュレーション」
モデルの行動の目的あるいは結果が同じようになるように行為すること
模倣における「行為の形式」と対象物の運動の再現における対象物の「運動形式」はさらに
形
線形構造
階層構造
因果関係
意図との連関
アフォーダンス学習(affordance learning)
モデルと対象物や環境との操作的な関係を学習すること
アフォーダンス
ギブソン
学習内容の区別
対象物や環境自体の性質についての学習
モデルと対象物や環境との関係についての学習
モデルと対象物や環境との操作がどのような機能であるのかについての学習
言語行動の模倣
議論のレベルが異なる基準で考えることが可能な、さまざまな模倣の仕方がある
模倣の熟達
絵画の模写
ものまね
新生児模倣
他者の顔の動き、特に舌出し行動を模倣する現象
バビンスキー反射みたいに赤さんを見かけたら試したいやつだmtane0412.icon
チンパンジーでも観察されている
森口・板倉, 2013
ミラーニューロンシステムとの関連についての発達研究なども蓄積されている
そもそも「新生児模倣」が模倣であるのかという定義問題もある
探索行動
3. 観察学習の理論
観察学習についても行動主義と認知主義の立ち場を区別できる
般化模倣(generalized imitation)
モデルの複数の行動の模倣を強化した後で、同じモデルの別の行動を観察すると、強化していないのに、その別の行動の模倣が見られること
徹底的行動主義の立ち場から米山, 2019によると
般化模倣における弁別刺激としては、
外的な弁別刺激、モデルの反応、モデルに与えられる強化子全体
「全体」という曖昧な表現
般化模倣における強化子としては、モデルの行動に一致させるという模倣行動そのものに、運動感覚や一致感といった模倣性強化子が存在していることがうかがわれる
「うかがわれる」という曖昧な表現
とは言え、観察学習は強化とは何らかの関係があることは認めざるをえないだろう
媒介理論(春木, 2000)
モデルを観察する学習者にとって、刺激と反応とを介在する「媒介過程」を想定することで、観察学習を説明しようというもの
人間にとっては多くの場合、言語行動
行動主義・徹底的行動主義からの説明には限界があるというよりも、まだまだ研究途上であるということの表明であると捉えておくべき
研究対象となっている学習者の過去の行動の履歴を完全に記述することは不可能
観察学習に影響する要因の分析をするのに限界がある
限界やんけmtane0412.icon
研究者が研究目的や研究対象をどのように捉えているか
第5回 目的と方法
実践的な研究を目的とする
特定の参加者の問題解決
できるかぎり過去の行動履歴に関わることを把握しようとする
人間一般の特性を明らかにすることを目的としている研究者
個人差は測定誤差
認知主義の立場
認知主義の立場
「媒介過程」として認知的な過程を想定していると要約することは可能
攻撃映像視聴条件の幼児では、モデル役の大人が行った攻撃行動(暴言含む)やそれに類似する新しい言動をすることが観察された(ボボ人形実験)
ボボ人形と呼ばれる、空気で膨らませた大型の人形を用意する
ボボ人形を含めさまざまなおもちゃが置かれたプレイルームに幼児をつれていき、そこでの幼児の行動を観察する
幼児は2条件
攻撃映像視聴
攻撃行動がみられた
何も視聴しない
攻撃行動はほとんど観察されなかった
後の「メディアの人間に及ぼす効果」研究にも大きな影響を与えた
「観察を司る下位過程(subprocesses governing observational learning)」(Bandura, 1986)としてまとめている
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モデルとなる事象(modeled events)が観察者(observer)に入力されると、
「注意過程」→「保持過程」→「産出過程」→「動機づけ過程」を経て
「(モデルと)照合するパターン(matching pattern)」が観察者から出力される
ボボ人形実験でも、全く同一の行動を示しているわけではなく「照合するパターン」として諸行動を示す
「注意過程」から「動機づけ過程」まで4つの下位過程のそれぞれで、観察者の属性(observer attributes)として、別々の属性が関与している
注意過程
「モデルとなる事象」の属性に注意をして、観察者にとって重要な情報を識別する
顕著さ(saliene)
感情価(affective valence)
複雑性
普及
機能的価値
観察者の属性
知覚的能力(perceptual capabilities)
知覚の構え(perceptual set)
認知的能力
覚醒水準
獲得された好み
保持過程
前の注意過程で識別された情報を
「記号的符号化(symbolic coding)」し
概念として「認知的体制化(cognitive organization)」し
記憶(保持)する
認知的リハーサル(cognitive rehearsal)
行動的リハーサル(enactive rehearsal)
観察者属性
認知的スキル(cognitive skills)
認知的構造(cognitive structure)
産出過程
保持された概念を行動に変換して算出する過程
行動に対し以下によって行動の修正を行う
認知的表現(cognitive representation)
行動の観察(observation of enactments)
フィードバック情報(feedback information)
概念の照合(conceptual matching)
観察者属性
身体的能力(physical capabilities)
(行動の)要素となる下位スキル(component skills)
動機づけ過程
観察学習をして実際に行動することが動機づけされる
さまざまな誘因(incentives)が伴う
外的誘因(external incentives)
感覚的(sensory)
物質的(tangible)
社会的(social)
制御的(control)
代理的誘因(vicarious incentives)
観察された利益やコストによる
自己誘因(self-incentives)
物質的(tangible)
自己評価的(self-evaluative)
観察者の属性
誘因への偏好(incentive preference)
社会的比較のバイアス(social comparative biases)
内的水準(internal standards)
実際の行動が取られる
観察者の実際の行動に先行して様々な要因があるが、Bandura(1986)は「自己調整(self-regulation)」や「自己効力感(self-efficacy)」といった概念の大切さを挙げている
人間には自分の行動を統制する能力があるということ
下位過程の動機づけ過程に自己誘因があげられていたように
自己調整
「自己観察」→「判断過程」→「自己反応」という3つの下位過程から成る
セルフコントロールという言い方もある
自己効力感
自己効力感とは効力予期についての認知(知識や信念)のこと
行動に先行する要因として結果予期と効力予期とを想定
結果予期
ある行動をすることによってある結果が生み出されることを予期すること
効力予期
そのようなある結果を生み出すために必要な行動をどの程度うまく遂行することができるかについて予期すること
4. 情報化社会における観察学習
「メディアの人間に及ぼす効果」研究
最近のICTを利用した各種のサービスにおける映像の人間への効果
映像には限定されず、メディア全般に当てはまる
ルール支配行動(第10回 言語行動)
言葉によるフィードバック(本章)
情報化社会の環境を操作化するためには、さまざまな条件が複雑に関連しあっており、「メディアの人間に及ぼす効果」研究自体が極めて困難であることを意味している
→第13回 マルチメディア学習